唯一無二

 

唯一無二。

 

この言葉の意味に意識がフォーカスし始めたのはここ1~2年のこと。私たちはすべて唯一無二の存在です。ひとりひとり、ひとつひとつがかけがえのない、大切な、貴重な命です。

 

それなのになぜか私たちは人も自分も傷つけてしまいます。

 

人に対しては時に、「何を言ってるの ? あの人。あの人のああいうところまちがってるよね。正しいのは〇〇〇という考え方なんだから」と自分を正当化するような考えを抱きます。

 

一方自分に対しては「自分はあるがままではダメ、変わらなければダメ。そのためにあの人を参考にしよう。あの人の真似をしよう。あの人みたいになれれば私はもっと自信を持てるはずだから」

 

どうして唯一無二の姿を100%受け容れられないのでしょうか。そういう思考回路が育てられなかったから。あるいは思考回路を曲げられてしまったから、でしょうか。

 

私は十数年前、ゴースト・ライターをしていました。そもそも本格的に文章を書く勉強などしたことのない私が知り合いに出版社さんに連れていかれ、

 

「はい、この先生の本を書いてください。一冊丸ごとお任せします」

 

「なんだこれ ?  そんなの無理に決まってるじゃない。私には本一冊書く技量なんてないんだから」

 

私の心の声です。当時フリーで活動しはじめたばかりの私にはお仕事を断るという選択肢はありませんでした。やるか、やらないか。やらないと決めたら、二度とそのクライアントさんからお仕事はいただけない。

 

それが当時のフリーの定めでした。

 

幸い編集者さんが私と同い年の男性だったため、打ち合わせの後、こっそり言いました。

 

「私には無理だと思いますけどいいんですか。書いたことないんですよ、本なんて」

 

「いいですよ、僕が赤を入れてあげます。この先生はそんなにうるさいタイプではないので阿部さんにちょうどいいと思うんです」

 

赤を入れるというのは文章、文脈を手直しして、より精度の高い内容にブラッシュ・アップしてくれる作業のことです。その時の私は人の好さそうなその編集者さんの言葉を信じて前に進むしかありませんでした。

 

今思うと無謀ですよね。企画書や広告コピー、雑誌記事くらいしか書いたことのないライターに単行本一冊丸ごとの執筆依頼が来ること自体。

 

でも興味のある内容だったので一生懸命書かせてもらいました。結果、たくさんの赤が入りましたが何とか無事に本ができあがってしまいました。

 

「キャ~、できちゃった」が本音です。

「ま、いっか」も本音です。

 

いろいろありながらも私なりのベストではあったと思えました。本当のことを言うと、当時ゴースト・ライターというものが存在していること自体知らなかったんですけど。

 

その後なぜかコンスタントにお仕事をいただけるようになり、そのうち、大御所と言える先生のお仕事もいただけるようになりました。

 

中にはインタビューもなし、一冊丸ごと私が書きあげた本もあります。これは業界の習わしなので、すみません、私個人はただ言われたお仕事に忠実に携わっただけです。

 

もちろん「インタビューなしっておかしくないですか」と言いました。

 

「いいんです、この先生はいつもたいてい丸投げですから」

 

信じられないことが横行していました、当時の出版業界では。エクスキューズととられても仕方ありませんが、それらは末端のライターがどうにかできるものではなくて。出版業界というのは外の世界からは想像がつかないほど封建的な世界です、少なくとも当時私の周りはそうでした。

 

ヒエラルキーがあって、著名な先生・文化人などがトップ、その間に出版プロデューサーや編集者が入り、末端が私のような無名のフリー・ライターです。ライターはいくらでもかわりがいるので基本文句や苦情はいえません。お仕事も選べません。お仕事を断ればその後のオファーは現実的にかなり難しい。

 

そんな状況の中で私は原稿を書くのが早く、どんな内容でもそこそここなせるライターとして重宝がられていました。

 

でも心の中では「何かが違う」と感じていました。丸ごと一冊書いているのに、常に名前の出ない「ゴースト・ライター」です。ゴーストとは幽霊の意味です。実体があるのに幽霊。私の書いた本を「〇〇先生の新刊、素晴らしいです」とファンの方が声を大にしている。

 

いろいろな意味で「????????」が続いていました。

 

そんなある日。新作に関わっていた私に、ある編集者さんがこう言いました。

 

「阿部さんの原稿、確かにうまいんだけど、〇〇先生のおもしろみにかけるんですよ。先生のおもしろさを忠実に再現してもらわないと困るんですよね」

 

その先生にはお逢いしたことすらありません、ただ書けと言われ書いただけ。その後ちょっと手を加えたら、

「そうそう、これですよ、これくらいの軽妙さがないとおもしろくないですからね」

と一応合格点の言葉をいただきました。

 

その後私は拙著を上梓させてもらえるライターとして、さらに作家として活動できるようになりました。

 

そしてきょう気づいたのです。

 

それは「原稿はうまいけれどおもしろみに欠ける」という、かの編集者さんの言葉。私の中でリフレインし続けていたんです、この言葉が。

 

そもそもおもしろくないというのはその編集者さんの主観です。他の方が読んでくれたらおもしろい、と言ってくれたかもしれません。大体お逢いしたこともないおじいちゃん先生の世界を当時の私が再現できるはずがありません。

 

何よりその言葉はその編集者さん自身の感情を私に投影しただけなのではないのか、と。

 

自身も小説家などを目指していたけれど限界や壁を感じて編集者さんになる、という方が当時の男性編集者さんの中には少なくありませんせんでした。文学青年が自分の夢に挫折して、そこから新たな活路を見出したというケースです。

 

当時50代だったろうその男性編集者さんは、自分はそこそこの原稿は書けるけれどオリジナリティーにかけるという自己像を描いていたのではないかと。

 

でもそこから編集者さんという素晴らしい職業にたどり着けたのですから、それこそがその方の「唯一無二」の価値だったのではないでしょうか。おそらく、ですがあの編集者さんは自分を肯定できなかったのではないかと。その想いが鏡としての私に映し出されたんだと感じました。

 

物書きにとって「文章がうまい」というのはセールスポイントにはなっても欠点になるはずはないのに、私にとっては「文章がうまいだけのライター、おもしろみにかけるライター」というネガティブな刷り込みになってしまっていたのです。

 

それだけ当時の私には自信がなかったということなのかもしれません。

「私なんかでいいのかな」という強い想い。

その編集者さんとお互いにネガティブな投影をしていたのかもしれませんね。

 

あれから十数年。私はペットとの生活を通じて独自の世界での気づきをたくさん得ることができました。

 

私の文章を書く力は天からの授かりものです。

読んでくださる方からの好き嫌いはもちろんあるでしょうけど。

 

私の直感も天からの授かりものです。

 

そこに阿部佐智子の世界観が加われば、決しておもしろみにかける物書きではないだろう、と。

 

それこそが唯一無二の私の力であり、価値なのです。

 

私は書くために授かった自分のこの命を自分自身が作った壁で傷つけていたんですね。

 

「ごめんね、さっちゃん」

 

思わず涙が出ました。でもそれは嬉しい開放のサインでもありました。

 

 

あなたにはあなたにしかない才能が託されています。

 

その才能をもし欠点だと思っているのだとしたら。その宝石を勇気をもってその手に握りしめてください。自信をもって、胸を張って、「これが神さまがくれた私の宝石なの」とみんなにみせびらかしてください。

 

「そんなことをしたら傲慢な人間だと思われるから」

 

そんなことはありません、それを傲慢だと感じる人は自分の自信のなさをあなたに投影しているだけです。そんなものに振り回されるほどあなたの命はちっぽけではないんです。

 

今すぐは無理でもいつかきっとその宝石を自慢できる日が来るはずです。

 

 

唯一無二。

 

すべての方に捧げたいこの言葉。

愛をもって、あなたに……。

 

 

 

P.S.

 

当時私はゴースト・ライターというお仕事に誇りをもつことができませんでした。肩書き、呼び名はなんであれ、自分の仕事に心からの誇りを持てていたら、と当時の自己肯定の低さを痛感しました。

 

どんなお仕事でも喜びと感謝をもって誠実に取り組むことで私たちの唯一無二の才能は磨かれますね。そうすることによって誰でも自分色をこの世界に投影することができるのです。

 

私たちに与えられたチャンスは「平等」かつ「公平」です。

自分自身のあるがままをうけいれた時、私たちの光はマックスの光となることでしょう。

 

その光こそがあなたの命の輝きです。命の煌きです。

 

一見ドヨンと曇ったように思える命は実はその光を取り戻す準備をしているだけ。しっかり輝くためのエネルギーをじっくりゆっくり蓄えているだけです。誰でも光り輝く時を迎えられます。自分自身にcueを出すだけで。

 

自分の価値を適正評価しましょう。過大評価も過小評価も私たちの認知の歪みによって生まれているものです。

 

あるがままの自分の全受容という能力を再び思い出すために。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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